身近な方の死を経験された方へ
死を体験した直後の心の変化
身近な方の死に出会うと、私達は通常、次のような感情の変化を起こします。変化は、年齢・亡くなった方がだれか(妻、夫、子ども、恋人、友人等)、自分の性格、周囲に助けてくれる方がいるかどうかなどによっても違いますが、これらは、深い悲しみを体験した後に生じる、当たり前の反応です。決して無理をしないで、ご自身の心やご家族の心を受け止めてください。
1)何も感じないし、考えられないのです。
大切な方を亡くされた直後は、悲しみさえ感じられない、泣けない状態があります。ぼおっとしてしまったり、逆に全くショックを感じさせないようにお葬式や後の対応をてきぱき進めてしまったり、仕事や日常の生活を行ったりすることもあります。これは、あなたの心が、悲しみをまだ受け入れられないために生じている普通の反応です。あせらず、ご自身のこころの声を聴いてみてください。
また、ご家族でこのような状態の方があるときは、「泣けない」ことにショックを受けていることもありますから、「それでいいのよ」と抱きしめてあげてください。緊張が解けると、張り詰めていた、こころが溶け出せるようになります。
2)亡くなった人のことばかりが思い出されます。
葬儀も終わり、周囲の方が日常生活に戻り始めるとようやく、「死」を現実のものとして見つめるときが来ます。遺族の方は、亡くなった方が戻ってくることを願い、さまざまな思いが心をよぎるようなるでしょう。「なぜあの人はいないのだろう?」という悲しみや「どうして私を置いていったの?」という怒り、「もっとしてあげたかったことがあったのに。。。」というすまなさや罪の意識、「この先どうやって生きて行けるのだろうか?」という不安、「寂しい、話し相手がいない。。。」という孤独感や、「もう、いやだ、疲れた。何もしてあげられなかった。」という無力感などが次々と生じてきます。
このような感情が生じてくるのはとても苦しいので、気持ちや行動に混乱が現れてしまいがちです。誰かに聞いてもらいたくて、何度も何度も同じ話を繰り返すようになることもあります。これも、普通の反応です。ひとりでがまんすると、身体症状がひどくなりますから、安心できる環境を作り話を聴いてもらいましょう。ご家族がこのような状態になったときにも、一人で聞き役になると家族の悲しみを一人で抱え込んでしまいますから、皆で互いに聴き合ったり、外部の方に聞いてもらったりしてみてください。
3)どうしていいのかわかりません。考えがまとまらないし、体に力がはいらないのです。
死が現実のものとして実感されると、亡くなった方がいない生活に順応できず、様々な身体症状や感じ方、考え方、行動に変化が現れることがあります。
1.身体の症状 | やたらとお腹がすく、胸が苦しい、息が切れる、口が渇く、音に敏感になる、体に力が入らない、なんだか自分を外から眺めているような感じがする、眠れない等 |
2.考え方の変化 | 亡くなった方をどうしたら生き返らせることができるかをいつの間にか考えていたり、自分が今何をしていたのか、どこに行こうとしていたのか、がわからなくなったり、亡くなった方が今どこかで生きているように思ったり、幻覚や幻聴のように亡くなった方が見えたり声が聞こえたりすることもあります。幻覚や幻聴は死を体験してから2〜3週間以内にときどき見られますが、一過性のものがほとんどで自然になくなります。 |
3.行動の変化 | ぼんやりした行動が増えたり、社交家だった人が家に引きこもって外出しなくなったり、食事をとらなくなったり、亡くなった方の夢をよく見たり、いつも亡くなった方のものを身につけていたり、逆に亡くなった方を思い出すものを遠ざけたり(写真をしまう、お墓に行かないなど)いつも何かしていたりなど。 |
4.自己破壊的な行為、自殺、自分を傷つける行為などを試みる | 苦しい気持ちを受け止めます。 どんな時に衝動的な気持ちが襲うのかを整理し、苦しいときは助けを求めるように伝えてください。 早期に専門家に相談しましょう。 |
4)早く立ち直りたいのですが、どうしたらいいのでしょう?
怒りや悲しみを十分に表現し、周囲の人にも受け止めてもらえると、亡くなった方への感情から開放されて、現在の自分の生活を新しく進めたり、新しい人間関係を作ったりし始めることができます。
「大丈夫。もう十分に泣いた。」「思い出したいときには、自由に思い出していいんだ。」「泣きたくなったら、泣いていいんだ」とご自身に言ってあげてください。もし、ご家族が、他の家族を気遣って亡くなった方の話題をさけようとしていたら、「話しても大丈夫よ」と励ましてあげてください。
周囲の人はどのようにして助けてあげることができるでしょうか?
話を聴く → 今、できることをいっしょに考える → 死を受け止められるように援助する → 今後のことをいっしょに考える
1)故人は本当に亡くなったのだという実感を持てるように援助する。
事故や災害で亡くなった場合、否定したい気持ちが強いので、死を受容するまでに時間がかかります。認めなくてはいけないとわかっていても、こころでは、「うそだ、きっと生きている。『ただいま』と帰ってくるかもしれない」と信じたくないのです。もし、亡くなったことを認められずにいる場合には、無理に死を確認させるのではなく、「そうですね。あの方は、そういう方でしたね」と生きていたときの話を聴きながら、自然に死を理解するようになるまで、じっと聴く姿勢で接してあげてください。
「もう、いないんですよね」と死を受け入れられるようになってきたら、お墓参りや月命日などを皆で行います。とてもつらいことですが、遺された方が現実の世界で生きていくためには、『別れの儀式』が必要になるのです。
2)遺された方がいろいろな気持ちを表現できるように援助する。
「亡くなった」ことを認めると同時に、悲しみや怒りや無力感など、今まで押さえていた感情が噴出してきます。深い悲しみに沈んで誰とも会いたくなくなったり、起きられなくなる方もあれば、どうしようもない怒りに襲われる方もあるでしょう。
感情が出始めると自分でも誰に対して何を感じているのかがわからなくなるのが自然です。周囲の方は、遺族が「誰に対してどのような感情を表現したいのか」を理解してあげてください。感情を表現すること自身が苦しい時もありますが、死に対する様々な気持ちが表現できるようになると、こころが解放されて行きます。
1)泣くと崩れそうだからと、がまんしていた人が泣き出したらどうしたらいいですか? それまでじっとがまんしていた方が、泣きそうな表情になったら「泣いていいんだよ」と、泣こうとする気持ちを励ましてあげてください。背中をなでたり、じっと側で聞いてあげることが大変助けになります。
2)怒りを表現し始めた時には、どうしたらいいですか? 遺された方は、もう直接には伝えられない故人に対する様々な感情を身近な方に向けてきます。聴いている方はしんどいと思いますが、これも立ち直るための大切なステップですので、しっかりとその感情を出させてあげてください。
3)自分を責めたり、罪の意識を表現したときはどうしたらいいでしょうか? 「こうしてあげたらよかったのに」「どうして、あの時に。。。」というような罪の意識を表現し始めたときは、自分を責めて落ち込んでしまいがちです。周囲の方は、話された内容について「あなたは、そんな風に思っているんですね」「それは苦しいですね」と受け止めた上で、「あなたは、他にどんなことをしてあげたのか」「故人はそのことをどのように喜んでいたか」というプラスの面を引き出してください。罪の意識を受け止めてもらえた後でなら、自分が行えたことも気づいてゆけます。その上で、「今、遺された家族のためにしたら、故人が喜ぶことは何だろう」といっしょに考え、自信を回復させてあげてください。
4)不安や孤独感を訴えられた場合はどうしたらいいのでしょうか? これから、故人なしで生きていかなくてはならないのですから、不安になるのは当たり前です。「何が怖いのか」「どういう時に不安なのか」を表現できるように援助してください。その不安に対して、周囲の方が具体的にどのように援助できるかを伝えてあげると安心します。例えば、夜一人で不安な時は、電話していいとか、一人で料理できない場合には、誰かが作りに行って、いっしょに食べるなどです。
不安や恐怖を感じるとわたしたちは最も安全であった時に帰ろうとします(こどもがえり)。これは自然なことですし、安心できる環境ができると不安や子どもがえりの状態も短期間でおさまりますので、この時期は、周囲の方が協力して不安の材料を取り除いてあげてください。
3)故人なしに生きてゆくことを援助する
一家の要を亡くした場合には、家族の役割分担が変わります。生活が一転する方もでるでしょう。夫の代わりに物事を決定していったり(収入、財産の管理、子どもの教育、進路など)、妻の代わりに火事をきりもりしたり、子どもの世話をしたり、慣れないことに混乱と疲労が伴います。周囲の方はしばらくの間、具体的に手伝ってあげられることをしてあげてください。遺された方は落ち着きを取り戻して、自分でできるようになって行きます。
4)反応が過度の場合には、専門機関を紹介する
さまざまな身体症状が出るのは普通の反応ですが、度合いや期間が長い時、又複数の症状をともない本人の疲労が激しいときは、早めに専門の機関を紹介してください。
その場合、注意することは、ご本人が信頼している方から相談機関を紹介してもらうことです。例えば、かかりつけの医師や友人です。また、病院等の専門機関に行く場合には、必ず誰かが付き添ってあげてください。たいていの場合、周囲の人が病院や相談機関に行く必要があると思って薦めても、一人では行きにくいからです。
外出が難しい場合は、電話相談等以下のHPも参考にしてください。
死や別離の体験に対して向かい合うことができるようになるのは、大抵3ヶ月後くらいからで、約1年はこの「喪の作業」が続きます。この間にひとつひとつの段階を十分に対応できるように援助してください。
(本田恵子 honda-keiko☆waseda.jp)
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